離婚についての取り決めは、実は国によってさまざまな違いがあります。
日本のように、離婚届を提出するだけで離婚が成立する国もあれば、離婚そのものを認めない国も存在します。
近年、欧米諸国では、従来の離婚制度を改変する動きが活発に出ています。
それは、無過失離婚(No Fault Divorce)という考え方に基づく離婚制度の確立です。
無過失離婚という言葉自体、日本ではまだ聞き慣れない人も多いでしょう。
しかし、将来的には、欧米の影響を受け、日本でもこの無過失離婚の制度が取り入れられる可能性があります。
この記事では、現状の日本の離婚制度と比較しながら、無過失離婚制度や国際離婚を検討する際の注意点についても説明します。
諸外国の婚姻・離婚制度についての知識を得るためにも、ぜひご一読ください。
目次
無過失離婚(No Fault Divorce)とは
無過失離婚(No Fault Divorce)とは、夫婦の一方が離婚したいと考えたとき、離婚意思のある当事者が裁判所に申し立てるだけで、離婚が成立するという制度です。
無過失離婚の制度の下では、夫婦双方の離婚意思は必要ありません。
また、パートナーの不倫・不貞行為、DV(ドメスティック・バイオレンス)、虐待などの有責行為(離婚原因)があるかどうかは、離婚成立に関係ありません。
無過失離婚(No Fault Divorce)は、少なくとも一方の配偶者が「夫婦関係が破綻している」という認識を持つだけで、離婚が成立するという考え方です。
無過失離婚の考えのもとでは、婚姻の本質とは「夫婦双方が、共同生活を送りたいという真摯な意思を持ち、夫婦関係を継続させること」です。
つまり、夫婦の一方または双方が、「共同生活を送りたい意思」を喪失してしまった場合、夫婦生活としての実体を欠いてしまうというものです。
そして、夫婦関係が回復の見込みが全くない状態に至った場合には、戸籍上だけの婚姻を存続させることがむしろ不自然であると考えます。
すなわち、愛情がなくなってしまった夫婦の法律上だけの婚姻関係よりも、真の愛情や感情を基礎とした男女関係を重視するというのが、無過失離婚の根底にあります。
離婚に対する考え方は主に2種類
離婚に対する考え方は、主に有責主義と無責主義(破綻主義)の2つに分けられます。
日本の裁判離婚では、基本は有責主義的な考えの元で判断されることが多いです。
一方、無過失離婚制度がある国では、無責主義(破綻主義)の立場が取られています。
有責主義とは、一方が有責配偶者である場合のみ、離婚が成立するという考え方です。すなわち、一方の配偶者が法律で決められている離婚事由となる行為に及んだ場合だけ、有責行為をしていない配偶者からの離婚請求を認めるという考え方です。有責主義の考えの元では、離婚原因となる行為をしたり事実を作った配偶者(有責配偶者)は、離婚請求をすることは認められません。
無責主義(破綻主義)とは、夫婦関係が事実上破綻していると認められる場合、夫婦双方から離婚請求を認めるという考え方です。無責主義(破綻主義)の考えのもとでは、夫婦関係が事実上破綻していることのみが離婚の条件であるため、有責配偶者からの離婚請求も認められます。無過失離婚制度を認めている国は、この無責主義(破綻主義)的な考えを基盤としています。
無過失離婚を採用する国の離婚手続きの流れ
アメリカは、各州ごとに細かい取り決めの差はありますが、無過失離婚制度を全州に取り入れています。
アメリカでは、日本のように離婚届を役所で提出するだけで離婚が成立するという制度はなく、すべての離婚が裁判によって決されます。
裁判の前に一定期間の別居期間が必要な州があるなど、州ごとに離婚の方法が異なるため、国際離婚をする際は、事前に州に登録のある弁護士に相談することが必要です。
以下、アメリカの離婚手続きの流れを解説します。
アメリカの離婚手続きの流れ
1.必要書類を提出する
離婚裁判の申請書や、相手方配偶者の召喚書などを、住所がある州の裁判所に提出します。
書類が受理されると、召喚書が相手方配偶者へ送られます。
2.相手からの返答を受ける
召喚書を受け取った人は、指定の期間内に返答書を裁判所に提出します。
もし、期間内に返答書の提出がされなかった場合、欠席判決となり、裁判を申立てた人の主張のみで判決が下されます。
3.財産の情報開示手続き
夫婦の共有財産(貯金、所持している不動産、負債など)についての情報を開示します。
4.話し合い・裁判
夫婦に子どもがいる場合は、親権や養育費について取り決めるために話し合いをします。
また、財産分与についても、夫婦で協議します。
このような取り決めが夫婦の協議によってまとまらなかった場合は、裁判所の判断で決定します。
5判決、離婚成立
親権や財産に関する取り決めがまとまったら、裁判所が離婚成立の判決を下します。
無過失離婚のメリット
無過失離婚のメリットは以下のとおりです。
相手の有責性を立証する必要がないため、不必要な夫婦間の争いを防ぐことができます。離婚の話し合いの際に、互いが相手を非難し合ったり、感情的にぶつかり合う必要がないので、離婚に伴う精神的な負担感が減ります。
両親の紛争に長期間さらされ続けることは、子どもの心身に対する大きな負担になります。無過失離婚では、夫婦の紛争を早期に解決できるため、子どもへの悪影響を軽減できます。また、有責主義的な裁判離婚では、裁判に勝つために夫婦が互いに相手を非難し合うことで、夫婦の関係性が完全に崩壊し、離婚成立後に子どもの面会交流が円滑に実施できない事態が頻繁に起こります。無過失離婚では、そのような離婚後の親子関係への悪影響も防ぐことができます。
無過失離婚では、慰謝料の算定をする必要がありません。
慰謝料の算定には、感情的・情緒的な部分を考慮する必要があるため、時間がかかる場合が多いです。無過失離婚では、そのような慰謝料算定の必要がないため、手続き自体の簡略化が期待できます。
一方に共同生活を送る意思がなく、すでに破綻している夫婦を法律上の夫婦として縛り続ける、という極めて不自然な状態を早期に解消できます。それにより、個人の幸福を追及し、早期に新たな人生を送ることができます。
無過失離婚のデメリット
無過失離婚のデメリットは以下のとおりです。
無過失離婚では、一方配偶者が裁判所に申し立てるだけで離婚が成立するため、離婚に対する意識面でのハードルが下がり、離婚件数が増加します。実際、無過失離婚制度を取り入れたアメリカでは、離婚件数が著しく増加したというデータがあります。
どの国でも、結婚や出産が理由で仕事のキャリアを諦める人たちが多くいます。自分のキャリアを犠牲にしながら子育てをしたり家庭を支えていた人たちが、相手の申し立てによって突然離婚させられる事態になると、とたんに経済的不安に陥ってしまう場合があります。
各種調査や研究の結果によると、ひとり親家庭(特に母子家庭)で育った子どもは、学業面や精神発達面で負の影響を受ける場合が多いというデータがあります。無過失離婚制度で離婚件数が増加し、ひとり親家庭の総数が増加することにより、離婚家庭の子どもが悪影響を受けることが考えられます。
国際離婚におけるトラブルの事例
以下の事例は、アメリカ人の男性と結婚した日本人女性のケースです。
日本人女性のAさんは、アメリカ人の男性と結婚し、アメリカで暮らしていました。
しかし、アメリカ人夫の不倫が発覚し、別居をすることになり、Aさんが単身で日本に帰国しました。
Aさんは夫婦関係を再構築することを考えていましたが、アメリカ人の夫は離婚することを望み、アメリカで離婚請求訴訟を提起しました。
そして、突然、日本にいるAさんのもとにアメリカの裁判所から召喚状(Divorce Paper)が送達されました。
アメリカは無過失離婚制度であるため、一方の配偶者から離婚請求があれば、すぐに離婚訴訟が開始されます。
裁判所は、親権や財産分与についての取り決めを早急に進め、離婚を早期に成立させます。
Aさんは無過失離婚制度の知識がなく、対応が遅れ、結局Aさんの欠席判決となり、すべてアメリカ人夫の主張が叶う内容で離婚が成立してしまいました。
加えてAさんは、日本の離婚制度の知識しかなかったため、アメリカ人夫に対して慰謝料請求をすることができないことを知り、離婚後に経済的不安を感じることになってしまいました。
国際離婚を検討するときの注意点
上の事例のように、国際離婚をする場合は注意が必要です。
アメリカのように無過失離婚制度を取り入れている国にいる配偶者と離婚する場合、アメリカの裁判所や弁護士から、裁判についての通知や訴状などの書類が送られてくることがあります。
送付される書類の中に、裁判所からの召喚状が含まれている場合があるため、充分に注意しなければなりません。
召喚状を受け取ったまま放置してしまうと、不利な条件での欠席判決となってしまいます。
裁判所からの訴状や通知と思われる書類は、簡単に受け取らない、もし受け取ってしまったときは、速やかに国際離婚に精通している弁護士に相談するなどの対応が必要です。
無過失離婚に限らず、国際離婚をする際は、夫婦双方の国籍がある国の離婚制度をよく理解し、それぞれの国の制度に沿った手続きを正しく行うことが必要なのです。
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執筆者:米良2025年5月19日
長年の情報収集経験を有し、英語での情報分析も得意とする。豊富な海外調査実績をもとに、国内外の問題を独自の視点で解説します。