たとえ仲の良い親族間であっても、トラブルに発生するケースはあるものです。
とくに相続など金銭の問題が絡む場合は、信頼していた親族同士でも対立が生まれ、裁判にまで発展するケースも少なくありません。
実際、家庭裁判所で扱われた遺産相続に関する事件は、年間1万件を超えています。
さらに注目すべきは、その7割以上が「5,000万円以下」の遺産をめぐる争いだという事実です。
このことから、相続トラブルは決して富裕層だけの話ではなく、一般的な家庭にも十分起こり得ると言えるでしょう。
本記事では、相続時に生じやすい親族間のトラブルとその事前対策として有効な探偵の活用法を解説します。
遺産相続を争いに発展させないためにも、ぜひ参考にしてください。
目次
親族間で相続争いは誰にでも起こり得る
親族間での相続争いはどの家庭でも起こり得るものです。
実際、「令和5年 司法統計年報(家事編)」によると、家庭裁判所に持ち込まれた遺産相続をめぐる調停・審判事件は、年間13,872件発生しています。
これは、1日あたり30件以上も遺産相続事件が起きている計算です。
また、相続トラブルは資産が多い家庭だけの問題ではありません。
同統計では、遺産総額5,000万円以下の案件が全体の約77%を占めており、一般的な家庭ほど争いが起きやすい傾向にあります。
出典:令和5年 司法統計年報(家事編)のデータを元に作成
大きな資産がなくても相続をめぐってトラブルになる可能性は十分あるため、事前に対策を講じておくことが大切です。
相続の際によくある親族間トラブル
相続トラブルを避けるためには、親族間で起こりがちな問題をあらかじめ理解しておくことが大切です。
ここでは、相続時によく見られる主なトラブルについて解説します。
- 相続人と連絡が取れない
- 遺言書の内容が不自然
- 分配された財産が不平等
- 愛人の発覚
相続人と連絡が取れない
相続時によく起こるトラブルのひとつが、相続人と連絡が取れないケースです。
親族同士が長年疎遠になっていたり、過去の確執から連絡を拒否されたりすることが主な原因としてあげられます。
遺産相続を行う際は、遺産分割協議を行って相続の配分を決定します。
この遺産分割協議には相続人全員が参加し、同意することが必要です。
したがって、相続人と連絡が取れない場合は遺産分割協議が進まず、相続手続きが行えないおそれがあるのです。
なお、遺産分割協議自体には法的な期限がありません。
しかし、相続税の申告や相続登記の申請には期限が設けられています。
期限内に手続きを行わなかった場合は次のようなペナルティがあるため、実質、期限を意識した早急な対応が必要です。
相続関連の申告・申請 | 期限 | 過ぎた場合のペナルティ |
相続税の申告 | 相続発生から10ヵ月以内 | 加算税や延滞税 |
相続登記の申請 | 相続発生から原則3年以内 | 10万円以下の過料 |
相続手続きを円滑に進めるためには、こうしたリスクを見越して早めに相続人の所在や連絡手段を確認しておくことが重要です。
遺言書の内容が不自然
遺言書の内容が不自然というトラブルもあります。具体的には次のケースが考えられます。
- 認知症になった状態で遺言書が作成されている
- 全財産を特定の相続人に相続させる内容が書かれている
- 筆跡が本人のものと乖離がある
上記のような状況では、親族間において疑いの念が生まれるのも無理はありません。
遺言書の内容に納得が行かない場合は、「遺言無効確認訴訟」を起こして裁判を行うことが必要です。
分配された財産が不平等
相続時に財産が不平等に分配され、親族間の信頼が崩壊し、法的紛争に発展するケースもあります。
相続ではすべての相続人が相続財産について正確に把握したうえで、公平な分割を行うことが求められます。
しかし、以下のようなケースでは正確な財産の把握自体が難しく、法定相続分に則った分配がなされない可能性が高いです。
- 故人名義の銀行口座から預貯金が無断で引き出されていた
- 実家の不動産が特定の相続人に勝手に名義変更されていた
- 家族経営の事業持分が秘密裏に特定の相続人へ譲渡されていた
上記のような場合は、財産を隠した相続人に対し「不当利得返還請求」が可能です。
また、分配後に隠された遺産が発覚すれば、遺産分割協議の取り消しや再協議を家庭裁判所に請求できます。
愛人の発覚
相続時のトラブルとして、愛人が発覚するケースもあります。
法律的には愛人自身に相続権はありません。
しかし、故人が愛人との間に生まれた子どもを認知している場合は、子どもに対して相続権が発生します。
もし、遺産協議後に愛人やその子どもの存在が発覚した場合、協議が再びやり直しとなる可能性が高いです。
また、親や祖父母が配偶者と死別し、現在独身である場合は、いわゆる「後妻業」に注意が必要です。
後妻業とは高齢の独身者に遺産を目的として接近し、自身に有利な内容で遺言書を作成させる行為を指します。
相手の信頼を巧みに得ながら自らが有利になるよう誘導し、公正証書遺言を作らせるケースもあるのです。
そして、本人が亡くなった後にその遺言書の存在が明らかになり、家族間で深刻なトラブルへと発展することも少なくありません。
相続の際にこうしたトラブルに発展しないように、遺産構成や関係者の存在を把握しておくことが不可欠です。
親族間や相続のトラブルに備える探偵活用法
遺産相続には親族間でさまざまなトラブルが起こり得るものです。
トラブルを未然に防ぐためには、専門家などに依頼して事前に対策しておくことが欠かせません。
ここからは、親族間の相続トラブルに備えるための探偵活用法を解説します。
- 相続人探し
- 相続人の素行調査
- 遺産調査
- 遺言書調査
相続人探し
相続人の所在がわからない場合、探偵に依頼することは効率的かつ現実的な解決手段です。
探偵を利用すれば戸籍や附票、現地調査など複数の手段を組み合わせて、短期間で正確に相続人の所在を突き止められます。
相続人が見つからない場合は、不在者財産管理人の申立を行って行方不明の相続人に代わって弁護士や司法書士などに財産を管理してもらうことも可能です。
しかし、手続きには時間や費用がかかるため、探偵に所在を確認してもらった方がスムーズに遺産相続手続きが完了するケースも多いです。
また、探偵は相続人への連絡や意向確認まで代行してくれる場合もあります。相続の分配なども探偵を通じて伝えられるので、依頼者の心理的負担を大きく軽減できます。
親族間に感情的なわだかまりがあるケースでも、第三者である探偵が介入することで相続人を冷静に協議の場に呼び戻すことが可能です。
相続人の素行調査
相続人の素行に不安がある場合、あらかじめ探偵に素行調査を依頼しておくことで、相続時のトラブルを未然に防げます。
調査によって重大な問題が確認されれば、遺言書の作成や相続廃除の手続きを通じて、法的に相続人から除外する判断ができるからです。
また、自分自身で相続人の素行を探ろうとすると、かえって関係を悪化させたり、相手から逆上されたりする危険性もあります。
相続人が攻撃的な場合は「遺産を渡さないとどうなるかわからない」など脅しを受けるケースも考えられるでしょう。
探偵に依頼すれば、本人と直接関わることなく調査を進められ、報告書という客観的かつ証拠能力の高い資料を用いて弁護士と連携することも可能です。
素行に問題のある相続人と正面から対峙せずに、冷静かつ安全に相続対策を講じるには、第三者である探偵の関与が非常に有効です。
遺産調査
遺産相続をスムーズに進めるためには、遺産調査を探偵に依頼するのも効果的です。
法律に則って相続を行う際は、預貯金や不動産、有価証券や債務などのプラス・マイナス両方の財産を正確に把握することが前提です。
探偵であれば法律を遵守した調査手法に加え、専門家との連携も可能なため、財産評価の精度と正当性を保証できます。
探偵に遺産調査を依頼すれば、法的に根拠を持って財産の全容を把握してくれるため、公正公平な遺産手続きを進められます。
遺言書調査
探偵に依頼すれば、遺言書の有効性を調査することが可能です。
筆跡鑑定や認知症の治療歴から遺言書作成時の状況を検証し、法的効力の有無を判断する証拠を収集します。
例えば、母の死後に兄弟で法定相続分に基づいた遺産分割を進めようとしたところ、「長男に全財産を相続させる」という遺言書が見つかったケースがありました。
内容に不審を抱いた兄弟が探偵に筆跡鑑定を依頼した結果、母親の筆跡に似せてはいたものの、別人による偽造であることが判明し、遺言書は無効とされました。
このとき、探偵が作成した筆跡鑑定を含む調査報告書が訴訟において重要な証拠となり、裁判所でも高く評価されています。
探偵による遺言書調査は、筆跡や作成時の遺言能力に関する客観的な裏付けを得るうえで非常に有効です。
専門的な調査によって得られた証拠をもとに、弁護士と連携して法的手続きを進めることで、遺言書をめぐるトラブルの解決が大きく前進します。
親族間トラブルを放っておくリスク
親族間のトラブルを放置すると、家族間の信頼がさらに損なわれるだけでなく、財産の損失などの深刻なリスクを招くおそれがあります。
例えば、相続人が行方不明のままでは、遺産分割協議を進めることができません。
協議そのものに期限はないものの、相続税の申告などには期限があり、結果的に早期の対応が求められます。
期限内に手続きを終えられなかった場合、加算税や延滞税、場合によっては過料が課されることがあり、経済的な負担が発生する可能性もあります。
また、素行に問題のある相続人を放置すると、法定相続分を超える権利を主張されたり、遺産分割をめぐって裁判に発展したりするリスクも高まります。
そうなれば、相続手続きの完了までに長い時間と多額の費用を要する事態にもなりかねません。
相続トラブルは一度発生すると、解決までに多くの労力と時間を要するのが実情です。
相続人全員がスムーズに手続きを終えられるよう、早い段階から適切な対策を講じておくことが重要です。
親族の素行調査を探偵に依頼すべき理由
遺産相続を効率的かつ安全に終わらせるには、親族の素行調査を事前に行っておくことがおすすめです。
相続人の素行がわかれば、本当に相続させるべきかが判断できるだけでなく、所在も把握できるため、万が一の際には遺産分割協議などをすぐに進められます。
親族の素行調査を行う際は、探偵に依頼するのが安全かつ効率的な方法です。
ここでは相続争いを避けるために、探偵を利用すべき理由を解説します。
- 素行調査を個人で行うのは難しくリスクが高いから
- 第三者が客観的に情報収集してくれるから
素行調査を個人で行うのは難しくリスクが高いから
素行調査を探偵に依頼すべき最大の理由は、個人での調査には大きなリスクが伴うためです。
相続問題には隠し財産や不正な資産移動、行方不明の相続人の捜索、遺言書の偽造といった複雑かつ繊細な要素が絡むことが多いです。
こうした調査を素人が行おうとすれば、個人情報の不正取得やプライバシー侵害、さらにはストーカー規制法違反に問われる可能性もあります。
加えて、調査対象に気づかれてしまうと、親族間の関係が悪化したり逆に訴訟を起こされたりするリスクさえあるでしょう。
その点、探偵であれば法令を遵守したうえで、聞き込みや張り込み、デジタル調査などの合法的な手法を用いて調査を実施できます。
対象者の交友関係や生活状況、金銭感覚などを詳細に調査し、客観性の高い報告書を作成してくれます。
作成した報告書は、弁護士や司法書士が遺言作成や相続判断を行う際の資料としても活用可能です。
相続トラブルを防ぎ、手続きを円滑に進めるうえで、法的に安全で信頼できる探偵事務所は心強い味方です。
第三者が客観的に情報収集してくれるから
素行調査は、当事者自身が行うよりも第三者である探偵に依頼するほうが、客観性と信頼性の高い結果が得られます。
当事者が調査に関与すると、相手に「監視されていた」「信用されていなかった」といった感情を与え、親族間の関係が悪化するリスクがあります。
たとえ動機が正当であっても、調査が発覚すれば感情的な対立を生む可能性は高いです。
また、個人による調査はどうしても主観が入りやすく、収集した情報の信頼性や証拠能力が低くなりがちです。
例えば、相続人の一人が他の親族の使途不明金(目的が不明な支出)を疑って自ら問い詰めた結果、関係がこじれて遺産分割協議が破綻したケースもあります。
一方、探偵が行う調査は法律を遵守したうえで行われ、写真や行動記録などの客観的な証拠が含まれる調査報告書としてまとめられます。
これらの報告書は、弁護士や司法書士との連携によって、法的な場面でも有効な資料として活用可能です。
さらに、調査中であることが周囲に知られにくいため、親族関係に波風を立てずに冷静な判断材料を得られるのも大きな利点です。
探偵に依頼することで、感情的な衝突を避けつつ、公正な判断につながる情報を得られます。
素行調査を依頼する探偵社の選び方
ここからは素行調査を依頼する探偵社の選び方を、次の内容で解説します。
- 「絶対解決」など誇大広告がないか確認する
- 自宅から近い探偵を選ぶ
- 探偵業届出証明書を確認する
- 行政処分の過去がないか調べる
「絶対解決」など誇大広告がないか確認する
探偵事務所を選ぶ際は、「絶対に解決」「100%成功」などの誇大な広告表現に注意が必要です。
そもそもどれほど経験豊富な探偵であっても、調査結果を完全に保証することはできません。
「必ず成功」といった表現を掲げる探偵は、実現不可能な約束で依頼者を誤認させるリスクがあり、倫理面での不安が残ります。
一方で、「累計〇〇件の調査実績」や「成功率〇〇%」といった客観的なデータに基づいた実績を公表している事務所は、信頼に足る可能性が高いです。
探偵を選ぶ際は、誇大な宣伝に惑わされず、定量的かつ事実に基づいた情報を開示しているかを基準に判断することが重要です。
自宅から近い探偵を選ぶ
探偵事務所は、自宅や被相続人の住所から近い場所を選ぶのが理想的です。
遠方の探偵に依頼すると、交通費や宿泊費などの出張費用がかさみ、調査費用が割高になることがあります。
また、急な相談や打ち合わせが必要になった際、遠距離では対面対応が難しく、調査内容のすり合わせや進捗確認が滞るおそれもあります。
その点、地元密着の探偵社であれば、地域事情への理解や土地勘を活かし、効率的かつ的確に調査を進められます。
対応のスピードや柔軟性も高く、コスト面でも無駄が少ないのが特長です。
地元に精通した探偵社を利用したほうが費用・対応力・調査精度においてメリットが大きいと言えるでしょう。
探偵業届出証明書を確認する
探偵社を選ぶ際は、「探偵業届出証明書」が交付されているかを必ず確認しましょう。
探偵業を営むには営業所ごとに各都道府県の公安委員会への届け出が義務付けられており、契約締結時に書面として交付することが法律で定められています。
第四条 探偵業を営もうとする者は、内閣府令で定めるところにより、営業所ごとに、当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に、次に掲げる事項を記載した届出書を提出しなければならない。この場合において、当該届出書には、内閣府令で定める書類を添付しなければならない。
一 商号、名称又は氏名及び住所
二 営業所の名称及び所在地並びに当該営業所が主たる営業所である場合にあっては、その旨
三 第一号に掲げる商号、名称若しくは氏名又は前号に掲げる名称のほか、当該営業所において広告又は宣伝をする場合に使用する名称があるときは、当該名称
四 法人にあっては、その役員の氏名及び住所
第八条 探偵業者は、依頼者と探偵業務を行う契約を締結しようとするときは、あらかじめ、当該依頼者に対し、次に掲げる事項について書面を交付して説明しなければならない。
一 探偵業者の商号、名称又は氏名及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
二 第四条第一項の規定による届出をした公安委員会の名称
(後略)
引用(一部改変):探偵業の業務の適性かに関する法律|e-GOV検索
この届出がない業者は違法業者であり、法令順守の意識が低いため、個人情報の漏洩やトラブルに巻き込まれるリスクも高くなります。
安心して調査を依頼するためにも、証明書の有無を事前に確認し、法令を遵守する信頼できる業者を選びましょう。
行政処分の過去がないか調べる
探偵社を選ぶ際は、警視庁が公開している情報をもとに過去に行政処分を受けた経歴がないかを必ず確認しましょう。
行政処分を受けた探偵社は違法な手法や不適切な調査を行っていた可能性があり、信頼性に大きな疑問が残ります。
例えば、警視庁に酷似した手帳を不正に使用し、違法な侵入調査を行った探偵社が営業停止処分を受けた事例もあります。
このような業者に依頼してしまえば調査対象に違法行為が知られた際、依頼者であるあなた自身の信用も損なわれるおそれがあります。
とくに相続のようなセンシティブな場面では、親族間の信頼関係にも深刻な影響を及ぼしかねません。
安全で誠実な調査を実現するためにも行政処分歴がなく、法令遵守の姿勢が明確な探偵社を選ぶことが重要です。
親族間トラブル・相続争いに備えるために
相続は本来、故人の意思を尊重し、家族で協力して進めていくべきものです。
しかし現実には、連絡が取れない相続人の存在や不自然な遺言書、不平等な財産分配などをきっかけに、親族間でのトラブルに発展することも少なくありません。
資産がそれほど多くない家庭でも相続をめぐって感情的な対立が生じるケースは多く、早めの備えが重要です。
探偵に依頼することで相続人の所在確認や素行調査、遺産・遺言書の調査といった客観的な情報収集が可能となり、円滑な相続手続きにつながります。
大切なのは問題が起きてから対処するのではなく、起こる前に備えておくこと。
家族の関係を守りながら、安心して相続を進めるために、専門家の力を活用する選択肢も検討してみてください。

執筆者:米良2025年7月9日
長年の情報収集経験を有し、英語での情報分析も得意とする。豊富な海外調査実績をもとに、国内外の問題を独自の視点で解説します。